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有名な心理学の実験はどこまで本当?100の研究を追試したら「再現」は約4割だった話

「力強いポーズをとると自信がわく」「マシュマロを我慢できた子は将来成功する」。心理学の実験から生まれたこうした話は、本や雑誌でよく紹介されます。ところが心理学の世界では2010年代に、有名な研究を同じ方法でやり直すと同じ結果が出ないことがあるという問題が大きく取り上げられました。「本当に効く心理テクニック」を紹介する動画が3,500万回以上再生されるほど人気のテーマだからこそ(2026年10月時点)、研究の「追試」でわかったことと、心理学の話を見聞きしたときの確かめ方を整理します。
この記事のポイント
- 2015年、心理学の100の研究を追試した大規模なプロジェクトでは、元の研究と同じように統計的に意味のある結果が出たのは36%だった
- 追試で見られた効果の大きさは、平均すると元の研究の半分程度だった
- 「自制心は使うと減る」という有名な効果を23の研究室で追試すると、効果はほぼゼロに近かった
- 「再現されなかった」は「完全な嘘だった」とは限らない。効果が小さい、条件が限られる、といった可能性も含まれる
100の研究をやり直したプロジェクト
2015年、学術誌Scienceに「心理科学の再現可能性の推定」という論文が発表されました。世界の研究者が参加したプロジェクトで、3つの心理学の学術誌に掲載された100の実験・調査を、十分な人数を集め、できるかぎり元の研究と同じ材料を使ってやり直したものです。
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 元の研究で統計的に意味のある結果が出ていた割合 | 97% |
| 追試で統計的に意味のある結果が出た割合 | 36% |
| 追試の効果の大きさ | 平均すると元の研究の半分程度 |
| 研究者が「再現できた」と主観的に評価した割合 | 39% |
論文は、追試がうまくいくかどうかは、追試チームの特徴よりも、元の研究の証拠の強さとより関係していたとも述べています。
追試された有名な研究1:「自制心は使うとすり減る」
我慢や集中で自制心を使うと、その後の課題でうまく自制できなくなる、という考え方は「自我消耗」と呼ばれ、広く知られていました。2016年に発表された追試では、23の研究室が同じ手順で実験を行い、合計2,141人のデータをまとめました。その結果、効果の大きさは非常に小さく、統計的にはゼロと区別できないものでした。
追試された有名な研究2:「力強いポーズ」でホルモンが変わる?
胸を張って両手を広げるような「パワーポーズ」をとると、ホルモンの値が変わり、リスクをとる行動が増えるという2010年の研究は大きな話題になりました。2015年に発表された追試は、論文のタイトルどおり「男女を含む大きなサンプルで、ホルモンとリスクをとる傾向への効果は見られなかった」と報告しています。
追試された有名な研究3:マシュマロ・テスト
幼いころにお菓子を我慢できた時間が、その後の学力などを予測する、という研究も有名です。2018年に発表された研究では、母親が大学を卒業していない家庭の子どもを中心に分析し、4歳のときに1分長く待てたことは、15歳の学力のわずかな差(標準偏差の約10分の1)と関連していました。ただし、その関連は元の研究の半分程度の大きさで、家庭環境や早い時期の認知能力などを考慮すると、さらに3分の2ほど小さくなりました。15歳時点の行動面との関連はさらに小さく、ほとんどが統計的に意味のある差ではありませんでした。
なぜ再現されないことがあるのか
理由は一つではありません。
- 元の研究の参加者が少なく、偶然の結果が大きく見えていた可能性
- 「面白い結果」が出た研究ほど論文になりやすく、そうでない研究は発表されにくい傾向
- 実験の時代や国、参加者の違いによって、効果が変わる可能性
こうした反省から、心理学では、実験の前に方法や分析の計画を登録しておく「事前登録」や、複数の研究室で同時に追試を行う取り組みが広がりました。上で紹介した自我消耗の追試も、この方法で行われたものです。
心理学の話を見聞きしたときの確かめ方
- 何人を対象にした研究か:数十人の実験一つだけなら、話半分に聞く
- 追試されているか:同じ結果が別のチームでも出ているかを調べる
- 効果の大きさはどれくらいか:「効果があった」だけでなく、どれくらいの差だったかを見る
- 元の論文や一次情報にあたれるか:紹介記事だけで判断しない
まとめ
心理学の有名な研究のなかには、追試で同じ結果が出なかったものや、効果が思ったより小さかったものがあります。それは心理学が役に立たないということではなく、研究をやり直して確かめる仕組みが働いた結果でもあります。「〇〇するだけで人生が変わる」という話を見かけたら、その根拠が追試に耐えた研究なのかを一度立ち止まって考えてみると、情報にふり回されにくくなります。