ホーム / 雑学・ガイド / 渡り鳥はなぜ迷わずに何千キロも飛べるのか:太陽・星・地磁気を使う「体内ナビ」の研
渡り鳥はなぜ迷わずに何千キロも飛べるのか:太陽・星・地磁気を使う「体内ナビ」の研究

秋の夕暮れ、V字に並んで空を渡っていく鳥の群れを見かけることがあります。渡り鳥のなかには、毎年何千キロ、ときには1年で8万キロ以上を移動するものがいます。小さな体でどうやって方角を知り、目的地にたどり着くのでしょうか。追跡調査でわかってきた驚きの移動距離と、鳥の「体内ナビ」をめぐる研究を紹介します。
この記事のポイント
- 体重125g未満のキョクアジサシの一部は、1年に8万km以上を移動していた(2010年、小型の記録装置による追跡)
- 2022年には、生後約5か月のオオソリハシシギがアラスカからオーストラリア・タスマニアまで11日間、少なくとも13,560kmを止まらずに飛んだと報じられた
- 鳥は太陽、星、地球の磁気など複数の手がかりを組み合わせて方角を決めていると考えられている
- 地磁気を感じる仕組みについては、目の中のたんぱく質「クリプトクロム」が関わるという説が有力で、研究が続いている
キョクアジサシ:1年に8万km以上
北極圏で子育てをし、南極周辺の海で冬を過ごすキョクアジサシは、「もっとも長い距離を渡る動物」と言われてきました。2010年に米国科学アカデミー紀要(PNAS)に発表された研究では、グリーンランドなどで11羽に重さ1.4gの小型記録装置を取り付けて追跡し、一部の個体が1年に8万km以上を移動していたことを確かめました。体重は125gに満たない小さな鳥です。
この研究では、南へ向かう途中にアフリカ沿岸を通るルートと南米沿岸を通るルートの2つがあること、北大西洋の沖合に、それまで知られていなかった休憩場所があることもわかりました。
オオソリハシシギ:止まらずに11日間
2022年10月には、GPSを付けた若いオオソリハシシギが、アラスカ南西部からタスマニア北東部まで11日間飛び続けたと報じられました。報道によると、移動距離は少なくとも13,560kmで、鳥が休まずに飛んだ距離として過去最長とみられています。ただし、この記録は報道時点で論文として正式に審査されたものではない点には注意が必要です。
鳥が使っている3つの「方位磁石」
これほど正確に飛べる理由について、研究者は一つの仕組みだけでは説明できないと考えています。ドイツ・オルデンブルク大学のヘンリック・モウリッツェン教授は、2018年に学術誌Natureに掲載した総説で、長距離の移動は大きく3つの段階からなり、どれか一つの手がかりや仕組みだけで何千キロ先の目的地に正確にたどり着くことはできない、と述べています。脳の中で、さまざまな感覚の情報を組み合わせる必要があるということです。
これまでの研究で、鳥が方角を知るために使っていると考えられている主な手がかりは次のとおりです。
| 手がかり | 使い方のイメージ |
|---|---|
| 太陽 | 時刻と太陽の位置を組み合わせて方角を知る。体内時計が欠かせない |
| 星 | 夜に渡る鳥が、夜空の星の配置から方角を知る |
| 地磁気 | 地球が持つ磁気の向きや傾きを感じ取り、方角の手がかりにする |
ほかにも、海岸線や山並みなどの地形、においなどが手がかりになっている可能性が研究されています。天気が悪くて太陽や星が見えない日があっても、別の手がかりで補えることが、長い旅を可能にしていると考えられます。
目で磁気を「見ている」かもしれない
とくに注目されているのが、地磁気を感じる仕組みです。夜に渡る小鳥は、光に依存する「磁気コンパス」を使っていることがわかっていて、その正体として、網膜にあるクリプトクロムというたんぱく質が関わっているという説が有力です。光を受けたクリプトクロムの中で起きる量子レベルの反応が、磁場の影響を受けるという考え方です。
2021年にNatureに掲載された研究では、夜に渡るヨーロッパコマドリのクリプトクロム(CRY4)を試験管の中で調べ、光による化学反応が磁場に反応すること、その反応が渡りをしないニワトリやハトのものより強いことを報告しています。ただし、これは体の外での実験です。生きた鳥の中で実際にこの仕組みで方角を感じているのかは、まだ完全には証明されていません。
渡り鳥を身近に観察するには
日本でも、春にはツバメ、秋から冬にはハクチョウやカモ、ガンの仲間などが渡ってきます。観察するときは、次の点を心がけると、鳥にも周りにも負担をかけずに楽しめます。
- 双眼鏡を使い、距離をとって観察する。群れを驚かせて飛び立たせない
- 餌付けはしない。鳥インフルエンザ対策などから、野鳥への餌やりを控えるよう呼びかけている地域もある
- 弱った鳥や死んだ鳥を見つけても素手で触らず、自治体などに相談する
まとめ
渡り鳥は、太陽、星、地磁気など複数の手がかりを組み合わせ、何千キロもの旅をしています。追跡技術の進歩で、1年に8万km以上を移動する鳥や、11日間止まらずに太平洋を越える鳥がいることがわかってきました。地磁気を感じる仕組みはまだ研究の途中ですが、目の中のたんぱく質が関わる可能性が見えてきています。空を渡る群れを見かけたら、その小さな体に備わった「ナビ」を想像してみてください。