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ブラックホールの「写真」は何を写したのか:地球サイズの望遠鏡が捉えたM87と天の川銀河の中心

光さえ抜け出せないブラックホールを、どうやって「撮影」したのでしょうか。2019年に初めて公開された、オレンジ色のリングの中心が黒く抜けた画像を覚えている人も多いはずです。ブラックホールを解説するアニメーション動画が約2,900万回再生されるほど人気のテーマですが(2026年10月時点)、あの画像が実際に何を写しているのかは意外と知られていません。国立天文台の発表をもとに、2つのブラックホール画像の正体と、撮影の仕組みを整理します。
この記事のポイント
- 2019年4月10日、国際研究チームが、楕円銀河M87の中心にある巨大ブラックホールの姿を初めて画像で示したと発表した
- 2022年5月12日には、私たちの天の川銀河の中心にあるブラックホール「いて座A*(エースター)」の画像が公開された
- 撮影したのは、世界各地の電波望遠鏡をつないで地球サイズの望遠鏡をつくる「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」
- 写っているのはブラックホールそのものではなく、その強い重力で曲げられた光と、中心の暗い「影(シャドウ)」
2つのブラックホールの比較
| 項目 | M87の中心のブラックホール | いて座A*(天の川銀河の中心) |
|---|---|---|
| 発表 | 2019年4月10日 | 2022年5月12日 |
| 地球からの距離 | 約5500万光年 | 約2万7000光年 |
| 質量 | 太陽の約65億倍 | 太陽の約400万倍 |
いて座A*はM87のブラックホールよりはるかに近いものの、質量は1000分の1以下です。それでも、国立天文台によると、2つの画像の見た目は非常によく似ています。
「黒い穴」ではなく「影」を写している
ブラックホールは光を出さないので、それ自体を写すことはできません。国立天文台の解説によると、ブラックホールの周りには高温のガスがあり、そのガスが出す光(電波)が、ブラックホールの強い重力によって曲げられます。その結果、明るいリングの中に、暗い領域が浮かび上がります。この暗い領域が「シャドウ(影)」と呼ばれるもので、ブラックホールの存在を示す証拠になります。
つまり、あの画像は「ブラックホールの写真」というより、「ブラックホールがつくる影と、その周りの光の写真」と言ったほうが正確です。
地球サイズの望遠鏡をつくる
ブラックホールはとても遠く、見かけの大きさは極めて小さくなります。国立天文台によると、いて座A*の見かけの大きさは「月の上に置いたドーナツ(直径8cm程度)」ほどしかありません。
これを写すために使われたのが、イベント・ホライズン・テレスコープです。ハワイやメキシコの火山、アリゾナやスペインの山、チリのアタカマ砂漠、南極などに置かれた8つの電波望遠鏡で同じ天体を同時に観測し、データを組み合わせることで、地球の大きさの仮想的な望遠鏡として働かせました。2019年の発表によると、波長1.3mmの電波で観測し、人間の視力にたとえると300万に相当する解像度を実現しました。これは、月面に置いたゴルフボールが見えるほどの細かさです。
観測で得られた生データは合計で数ペタバイトにもなり、ドイツとアメリカの研究機関に置かれた専用のスーパーコンピュータで処理されました。日本も、台湾・韓国・北米・欧州と共同で運用するアルマ望遠鏡が観測に参加した中で最も感度の高い望遠鏡として貢献し、国立天文台はアルマ望遠鏡をEHTに加えるためのデータ伝送装置を開発しました。
近いのに難しかった「いて座A*」
地球に近いいて座A*のほうが簡単に写せそうですが、実際はその逆でした。国立天文台の発表によると、どちらのブラックホールも周りのガスは光の速さに近い速度で動いています。大きなM87ではガスが一周するのに数日から数週間かかるのに対し、小さないて座A*ではわずか数分しかかかりません。そのため、観測している最中に、ガスの明るさや模様が激しく変わってしまいます。
研究者はこの状況を「自分の尻尾を素早く追いかける子犬の鮮明な写真を撮ろうとするようなもの」とたとえています。公開されたいて座A*の画像は、2017年の観測データから得られたさまざまな画像を平均したものです。
まとめ
2019年と2022年に公開されたブラックホールの画像は、世界8か所の電波望遠鏡をつないだ「地球サイズの望遠鏡」で捉えられたものです。写っているのはブラックホールそのものではなく、重力で曲げられた光と中心の影でした。夜空を見上げて天の川を見つけたら、その中心に、太陽の約400万倍の重さを持つブラックホールがあることを思い出してみてください。